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名古屋家庭裁判所 昭和39年(家)1229号 審判 1964年6月04日

申立人 中川治男(仮名)

主文

申立人の氏を「田辺」に変更することを許可する。

理由

本件申立の要旨は、申立人は田辺すみこと妻の氏を称する婚姻を為し、妻の家籍に入り、日展系の日本画家として今日に及び居るものであるが、申立人は妻すみこと昭和三九年四月一日名古屋家庭裁判所において離婚調停が成立し、これが届出を了し、申立人は復籍すべき戸籍が除かれているため前記富山県下新川郡朝日町草野○○○○番地に新戸籍を編製したものであるが、申立人は雅号を○○とし田辺姓をもつて今日に及び居る関係上、今般上記離婚に伴う「中川」姓を称しては慣用された画家としての社会性の生命を失い且つ個人の同一性認識の上からしても、その意味を失う恐れもあり、実生活上不便不都合を生ずるものに付御庁において上述事情御斟酌の上、申立の趣旨記載の如き御許可を得たく本改氏許可申立に及んだ次第であるというにある。

申立人に対する審問の結果および呈示の各証拠資料、その他当裁判所調査官の調査結果によると申立人主張の各事業ならびに申立人は昭和九年頃より日本画家として製作を続け、昭和一六年に妻田辺すみこと婚姻後は田辺○○と称し、その後日展に四回、院展に一回入選し、その他地方において後援会等を組織し、画会を催すなど、社会的に広く活動を続けていることを認めることができる。

本件は民法第七六八条に規定する復氏制度に対する例外として、その適用を排除することができるかどうかという事案であるが、我民法においてはかような場合に処置する規定がないから、戸籍法第一〇七条による氏の変更手続によつてその当否を判断しなければならないが、場合により民法の規定に反する結果を来しても、やむを得ないものと言わねばならない。

本件申立人の社会的地位、身分および職業上の影響その他離婚した妻田辺すみこの同意等をしんしやくして考えてみると、申立人が復籍した中川姓を称して永年の画業を継続し、社会的活動をすることは極めて困難であるのみならず、その対象である社会人に対しても重大な影響を及ぼすことをうかがうに充分である。かような場合は戸籍法第一〇七条に謂う氏を変更するにつきやむを得ない事由があるものと認めるを相当とする。

よつて本件申立はその理由があるから許可することとし主文のとおり審判する。

(家事審判官 水越政雄)

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